2011.5.14
新規学卒者の一括採用制度が始まったのは1895年の三菱(当時の日本郵船)と三井銀行からであるとされてるが、一般的になるのは20世紀に入ってからである。そう考えると100年以上の歴史ある制度であるとも言える。
100年以上の・・・伝統、慣習、しきたり、いろいろな言葉で表現されるが、果たして残してよい伝統なのだろうか?維持していくべき慣習なのか?後世に伝えるべきしきたりであろうか?現状を見ると、決してそうとも思えない。特に、昨今のような大学全入時代になると、毎年、一定の時期に一定数の学生が社会に送り出される仕組みとなっており、正に、大学名を部品名と考えると、トヨタの「カンバン」方式で学生が生産されてくるようなものである。
採用する側では総花的新卒一括採用にどうして拘っているのか?全く色に染まっていない人材を「企業文化」という色に染めることができるということに、一体、どれほどのメリットがあるのであろうか?外から見ると、この一括採用があるがために4年生大学は2.5年制程度の大学に短縮され、本来、4年間で学ぶべき専門知識を学ぶ期間が奪われている。また、学生からは企業が何を求めているのかが分かりにくいものにもなっている。外国の企業が新卒者も多様な新規採用者の人材プロファイルの一つとして扱っているのとは大きく異なった方法となっている。
イギリスを例にとって見てみよう。イギリスでも職種別・職務別採用が主流となっており、新卒者を採用した企業の割合が44%(CIPD,1999年)という結果から、新卒者も多様な新規採用者の一形態という扱いがされているということが見えてくる。大学では「ワークプレースメント」が活用されており、企業側が採用において重視する点として、「仕事の経験(40%)」(National Council for Work Experiende,2003)が最も高いことからもその背景が十分理解できる。「ワークプレースメント」を実施する目的は、授業で学んだ内容を現実の仕事に適用することで理論と実際の融合を図ることであり、更に、実際の職務経験を通じて自らの職務適性と志向を知ることでもある。「ワークプレースメント」には、大学の授業の中にコースとして組み込まれた単位認定の対象ともなる就業経験もあり、大学と企業を結びつける一つの方法ともなっている。また、「ワークプレースメント」がコースに組み込まれていない大学でも、「ギャップイヤー」ということで1年間の休暇を取得した上で、その期間を対象とした国内・国外での数多くの職務経験のコースを設定している。
イギリスのように、学生が大学を休学してでも、1年間に自分のやりたいことや興味のある企業に長期の職務経験を行いながら自らの将来や進むべき道を見つけていく方が、企業にとっても就職のミスマッチが解消するはずであり、短時間の面接で学生のほんの一面のみをみて、一生を決めてしまう方法に比べると、非常に有効であるように思える。いや、それ以上に、今の採用に係る時間が無駄な時間になる訳であり、その無駄を他の業務に振り分けることも可能となってくる。
「就職」という受験にも似たハードルをクリアするための予備校と化した大学、明確な人材像・スキルを明示することなく、「人材が第一」と言い続けながら採用活動を行っている企業。大学も、企業も変化すべき時期にきているように思える。