Column コラム
2014-3-19 勧酒

この時期になると、ある詩を思い出します。
その詩は、中国唐の時代、それも晩唐のもので五言絶句の唐詩です。
五言絶句とは五言(五つの漢字)の絶句(四つの行、四句)で現す詩のことをいいます。

詩の作者は于 武陵(う ぶりょう)で、タイトルは「勧酒」といいます。では原文。

勘酒     (酒を勧む)
勧君金屈巵 (君に勧む金屈巵<きんくつし>)
満酌不須辞 (満酌辞するを須<もち>いず)
花發多風雨 (花發<ひら>けば風雨多く)
人生足別離 (人生別離足る)

訳すと

酒を勧める
君に黄金の杯を勧める
このなみなみと注がれた酒を断ってはいけない
花が咲くと雨が降り、風も吹いたりするものだ
人生に別離は当然のことだ

しかし、この詩を決定的に有名にしたのが、井伏鱒二の名訳です。

この杯を受けてくれ
どうぞなみなみ注がしておくれ
花に嵐のたとえもあるぞ
さよならだけが人生だ

花に例えられていることもあって、
人生とは嵐の中に咲く花と同じようなものなんだ、
すぐに儚く散って離ればなれになってしまうものなんだ、
と受け止めがちである。

実は本当の意味は、
「人生に別れはやってくるのだから、今、この出会い、この時間を大切にしよう」
という意味なんだそうです。
この酒を飲み干して今を楽しく生きよう、いずれ別れは来るけれど
今はここで膝を突き合わせているのだから、ということですね。
今を懸命に楽しく生きようという古からのメッセージのようです。


それにしても、名訳です。
そして、3月は別れの季節です。